「リミット」鬼の一人芝居。
監督は、スペイン人のロドリゴ・コルテス、主演はライアンレイノルズ。
原題は「BURIED」(生き埋めの意)
非常に簡単なあらすじを書くと、
イラクで働くアメリカ人ポールが目が覚めたら木製の棺に入れられ土の中に
手元には自分のものではない携帯、ライター、ナイフ、ペン、酒
果たして脱出できるのか?
というストーリーです。
設定だけ聞くと、残されたアイテムと知恵を使った脱出ゲームのようなものだと想像し、そして、こんな目にあわせた悪いやつは誰だ!!とその正体に驚愕するパターンかと思いますが、見事に裏切られます。
まさかの全編ほぼずっと暗い棺桶の中で窮屈そうにひとりもがいているシーンです。
さぞかし予算はかからなかったんだろうなとおもいます。
顔アップばっかりなので、ライアンレイノルズがブサイクだったら間違いなく大コケしていたと思います。
焦燥感、苛立ち。。募る感情を究極的に狭い箱の中でここまで演じ切れるかというところで見応えがあります。
声だけの出演を含めて出演者が非常に少なく、ここまでワンシチュエーションで展開する映画は、知っている範囲では、「12人の怒れる男たち」くらいです。
暗所恐怖症、閉所恐怖症の人にはおすすめしません。
以下ネタバレありで考察しています。
【脚本の『粗』】
正直、万人受けする映画ではなく、コアな映画マニア向けというわけでもありません。
というのも、脚本としてはやや粗が見えるから。
シチュエーションが非常に限られていることもあって、何も考えずに見たときに、突っ込みどころや、無駄なシーンや、設定を活かしきれてない感がある不思議を感じると思います。
短い時間でたくさんの情報量をつめこみ、ストーリーを成立、完結させなくてはならないため、映画は絶対に無駄なシーンがありません。逆に、ストーリー上意味がわからないシーンが多いと、「あまり出来がよくない映画」と思われるもの。
例えば、そもそもなんでわざわざポールは埋められていたのか?人質が交渉前に死んでしまったら人質の価値を失うはず。
棺内の酸素や携帯の電池やライターといった、ライフラインとなる消耗品は、少なくなるにつれ恐怖を誘うアイテムでが、いずれも驚異的な粘りをみせ、最終的にはそこが問題となっていることすら忘れてしまいます。
突如棺の中に現れた蛇は、脱出への布石かと思いきや、特に何にも繋がりません。
数10cmの深さに埋められたと思われるのなら、ラストシーンでの脱出は十分出来そうだと思ってしまいます。
ポールは不安障害だったという設定ですが、不安障害じゃなくても同じ状況になったら誰でもパニックになります。むしろ、不安障害の割には非常に冷静です。
などなど、サスペンス映画としてはなかなか突っ込みどころが多いです。
【物語の中心である電話の内容】
しかし、ここで視点を変えてみます。
ストーリーの整合性を後回しにしてまでも言いたかったことは何なのか。ここまで設定を尖らせ、多少の粗や矛盾には目をつぶって、結局なにが言いたいのか?
何を批判しているのか?
つまり、死んだのは誰のせいか?ということです。
電池が切れそう!犯人に追い詰められている!蛇発生!みたいな感じを出しておいて、結局いずれもストーリーの本筋に絡まないのも、それらのイベントが「映画」として成立するためのただのイベントで、そこにフォーカスしたいのではないということだと思います。
物語の軸となっているのは、「ポール」と「何かしら外部」の電話です。
映画の中で、ポールは実に24回もの電話のやりとりをしています。
外部とのやりとりをまとめました。とても長いです。外部とのやりとりだけでもほぼあらすじそのものになります。
1)911 オハイオ州への警察につながる。要領の得ないやりとり。
2)(おそらく)自宅へ。「リンダ」に州軍にかけろと留守電を残す。
3)「リンダ」にかける。留守。
4)FBIへ。シカゴ支部に転送されるも、社会保障番号は?などと悠長なことを言われる
5)CRT(ポールの会社)へ。人事部長に転送されるも不在。
6)履歴に残っている番号に。自分をさらったと思われる人物につながり、身代金500万マネーを要求される。
7)ドナ・ミッチェルという人物へ。リンダへのコンタクトと、国務省の番号を要求。
8)国務省へ。テロリストと交渉はしないため身代金は払えないと言われる。たらい回しにされるが、人質対策のダンブレナーにつながる。真摯な対応だが、マスコミには言うなと強く念押しされる。
9)犯人から。呪詛を浴びせるが、「私はテロリストか?」という(印象深い)返しを受ける。ビデオを取れ、身代金を減額 などの要求。
10)自宅へ。留守。
11)ブレナーから。携帯の探知は難しい。特にアルジャジーラには知られたくないと。誘拐はビジネスで、様々な案件を相手にしてきたが、救えたのは数少ない。しかし、「マークホワイト」という人物は救出に成功し、現在は社会復帰しているとの情報。
13)犯人からメッセージ。女性がとらわれている映像。(これを受け、動揺したポールは人質ビデオを作成。)
14)「リンダ」に電話。番号を残す。
15)犯人からの動画。CRT所属という「パメラ」が政府に無視していると告げた後死亡。
16)ダンブレナーより電話。ビデオを撮ったことについて咎められる。
17)CRT人事部長から。マスコミとやりとりしていないと確認された後、淡々と解雇通知を受ける。理由は、パメラと不適切な性的関係にあったことが職務倫理規定に違反しているため。当日の朝をもって解雇しているため、すべてのことに責任を負わないと言い残す。
18)ブレナーにかける。爆撃によって犯人は死んだと思われ、死を悟ったというようなことを言い残す。(爆撃によって棺が破損し砂が入り始める。)
19)携帯に遺言を残す。「リンダ」は妻と判明
20)実は生きていた犯人から電話。焦っている様子で、金を払わせるために指を切断する要求。家族に危険が迫っていると脅迫。
21)リンダに逃げろと留守電を入れる。
22)ブレナーとのやりとり。捕まえたシーア派のゲリラが埋めたアメリカ人の場所を知っていたため、居場所にすぐに向かうとの知らせ。
23)リンダから。心底心配する妻との会話。
24)ブレナーから着いたと連絡が。しかし彼らがたどりついたのはマークホワイトの棺だった。
【この映画で言いたかったことは?】
このやりとりを見ると、味方陣営(アメリカ側)とのやりとりが強調されており、テロとの戦いではなく、もちろんウィットと知恵を活かした脱出劇などでもなく、「アメリカ」を批判したいのではないかというように思えます。
真っ先に助けを求めた警察やFBIは論外。危険な場所に社員を赴任させていた会社は、いざ何か起こると適当な理由をつけて社員を首切りし真っ先に保身。
アメリカ自体は、テロと交渉せず身代金は払わないと名言。
国務省は救助に応じてくれるものの、マスコミ対応ばかり気にし、ポールの携帯の電波を拾うこともできず結局人質は主人公やパメラ、マークホワイト共々死亡します。
そもそも今回の誘拐事件も、間接的にはアメリカが発端と言えるので、
アメリカがやっていることは、自分で振りかざしたナイフで自分を切っているようなものだという強いメッセージを込めています。
脱出できそう?できない?と思ってたら、初めから詰んでいたという絶望感。
何度もかけたもののつながらなかった「リンダ」という希望が最後にやっとみえたのも、束の間の希望からの絶望を象徴する印象的な流れでした。
映画全体のメッセージを考えると、ポールが助かるというラストはありえないのです。
マークホワイトが何者か?ということについては、諸説があるかと思いますが、同じように誘拐され、そしてすでに死亡してしまった被害者という見方が有力かと思います。救出の実績がなかったので、ポールに誰か助けたのか?と聞かれてとっさにマークホワイトの名を出したのでしょう。
ラストに示される、ペンで書かれたマークホワイトの字が、マークホワイトは他にもたくさんいる!というような暗示にも見えてきます。