Memorandum

主に観た映画(新作、旧作)の備忘録。目指せ1000

「レクイエム・フォー・ドリーム」感想 最強の鬱映画。

感想を一言、、見ていてとても痛々しい映画。

ホラーじゃないので怖いわけではないけど、「きついな」というのが正直な感想。

非常に強烈なインパクトを受けました。

 

2000年公開、原題は"Requiem for a dream"。

監督は、「ブラックスワン」などを手がけた、ダーレン・アノロフスキーです。

ブラックスワンでもそうですが、グロいわけではないけど心理的に嫌な描写をするのがうまい監督だと思います。

 

ドラッグを題材として、老若男女4人がそれぞれどういう道を辿ってしまうのかという話です。

メインの老若男女4人とは、未亡人で孤独なサラ、サラの一人息子のハリー、その友達で黒人のタイロン、ハリーの恋人のマリオンです。

サラは古いアパートに一人暮らししていて、いつも独りでテレビばかり見ています。ハリーは就職もせず、タイロンとヘロインを吸う生活です。ある日、タイロンが薬の転売でお金儲けをすることを提案します。商売はうまくいき、お金はどんどんたまります。ハリーはマリオンと洋服屋を営む夢を追いかけるようになります。

一方、サラは大好きな番組の出演者に当選したとの連絡を受けます。はりきって、ハリーの高校卒業時に来た赤いドレスを着ようとしますが、テレビをみてお菓子を食べるだけの生活で太ってしまっていました。ダイエットを決意し、友人の娘が使っていたというダイエットピルを使い始めると、みるみる痩せていきます。

こうして、4人の人生は夢に向かって順調かと思ったが。。

というお話です。

 

予告編はネタバレ全開なので、BGMはります。

いい映画はBGMが印象的です。

 

Requiem For A Dream Full Song HD - YouTube

 

以下詳しい感想です。内容に触れています。

 

【若者3人とドラッグ】

まず、ハリーとタイロンは映画が始まった瞬間からジャンキーです。マリオンは、初めからジャンキーだったわけではないですが、ハリーに唆されて始めます。

そして、成功の近道だと思ってお金を稼ぐために本格的にドラッグに手を染めます。

 

3人は最初からドラッグと積極的に関わっていました。普通に生きていたら人はそうはならないと思うので、いくらこの人たちがひどい目に遭い転落人生を歩んでいたとしても、どこか遠い話だとしか思えません。そして、題材がドラッグなだけに3人にハッピーエンドが待っているはずがないと思うわけです。

またこの3人はドラッグの悲惨さを体現する役目を担ってないので、「ヤク中になった結果」としての描写(幻覚とか狂人のような行動とか)はなく比較的理性を保ったままです。

これだけだとただのバカな若者がドラッグにはまっただけでそこまで鬱映画ではない。

 ただし、今後予想される未来がどうあがいても真っ暗なので痛々しいとは言えます。

 

【お母さんとドラッグ】

では何が最強の鬱映画たらしめているのか。

 

それは、お母さんのサラの話です。

サラは、ドラッグに手を出したなんて意識は皆無で、むしろ一番被害者に近い存在です。

それなのに、一番惨めで救いのないエンディングを迎えるのがこの人というのが、まず辛いところです。

最後は、電気ショック治療を受けて、 髪の毛は真っ白になってしまい、廃人手前で友人の顔もわからない。悲惨です。

 

サラはどうしてここまでなってしまったのでしょう?

夫はなくなり、息子は働きもせずぷらぷら。自分は年をとり、もうすることがないし世話を焼く相手もいない。

大好きなテレビジョンに出るという夢が叶うことになったサラは、そこにすがりつくしか、毎日を充実させる方法はありません。

 

サラは孤独で、夢に依存していました。

なぜなら、「他人に必要とされる」という、人として根本的な部分が満たされてなかったから。

よく、人を揶揄するような意味を込めて、「あの人は承認欲求が強い」などと言ったりしますが、それは違います。

承認欲求や、自分が重要だと思われたい気持ちは、老いも若いも関係なく非常に強い欲求で、万人共通のものだと思います。生きる意味とすら言えます。

サラは、今の私が好き、こうやって生きることで何者かになれる、と言います。

 

もう一つ、母親や祖母に対するの気持ちのようなものが投影されるからかなと思います。

映画中盤の、ハリーとサラの最初で最後の対話のシーンが印象的です。

(薬のせいとはいえ)ハイテンションで世話を焼きたがるサラに対し、少し煙たがるハリー。

医者、テレビへの絶対的信頼と無知。

自分といると元気だけど、一人の時はやはり寂しそう。

なんとなく、一般的な「母親像」「祖母像」に近いものがあります。 

多くの人が自分や他人に対して抱える気持ちがサラを通して見せられるから、共感あるいは同情でき、ゆえに非常に痛々しく感じます。

サラがテレビのことをtelevisionと呼ぶのも、なんか年を感じるなあって思います、、 

 

この映画、もちろんドラッグ防止啓発の側面もあるけど、たまたまテーマな薬なだけで、他にも人の弱さに入り込むのは、怪しい宗教やビジネスだってあります。

満たされなさが人を一番弱くする、満たされなさが依存につながるということの意味がよくわかります。

 

サラやマリオンが、きっと大丈夫、なんとかなるなんてつぶやいたりします。

だけど、絶対にどうにもならないことがわかっちゃうので虚しいですね。

 

【スタイリッシュ】 

こんなに暗い話なのに、なぜかまた見たくなってしまう、謎の中毒性があります。

まず、サラ役のエレンバースティンの演技がやばすぎます。メイクのおかげもあるだろうけど、とても引き込まれます。最早一人劇団。

この役で彼女はアカデミー主演女優賞にノミネートされました。

この年にして体を張る演技が素晴らしいです。

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 夢と

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現実。。。

 

そして、カメラワーク、素早いカット、効果音、印象的なBGMを駆使して、全体的に妙にリズミカルでテンポがよく、心地よくさえあります。 

薬を実際に体内に入れるシーンも、直接描くのではなく、決まった一連のシークエンスの映像を見せています。あまり見たことない演出で今見ても目新しいと思います。

 

そして、異常性の演出がうまいです。

早送りやスロー再生をうまくつかって、ハイ時の描写だってわかるようにしたり、手持ちカメラを使って、罪悪感や不安な心情を映しだしたり、最後の方は、カットがどんどん短くスピーディーになって、もうどうにもならない破滅エンドを演出してみたり。

ともすれば日常パートが多く絵面が地味になりそうですが、映像表現の工夫も実に多彩なので、そこも注目するとより面白いと思います。