Memorandum

主に観た映画(新作、旧作)の備忘録。目指せ1000

「スポットライト 世紀のスクープ」感想

今年度のアカデミー賞受賞、トム・マッカーシー監督の「スポットライト 世紀のスクープ(原題:Spotlight)です。

カトリック教の神父による児童の性的虐待の隠蔽を、ボストンの新聞社スポットライトが暴くという、実際に起こった事件を基にした話です。

 
「アルゴ」や「それでも夜は明ける」とか同じで、最近のアカデミー賞は実話に基づく社会派作品が割と人気あるイメージがありますね。
本作は、ジャンル分けが難しい映画で、サスペンスでもないしドキュメンタリー寄りかな?と思います。
 
感想を一言で言うと・・・地味だけど熱さを感じる。
 
ジャーナリズムや宗教に興味があればなお楽しめると思います。
 
 
以下感想を述べています。若干内容に触れています。

 

 
【演出について】
アカデミー賞関連で言うと、比較的地味であると評した「レヴェナント」の上を行く演出の地味さです。
ひたすらスポットライトの記者たちが仕事場と取材先を往復するっていう感じで、ドラマ性はすごく抑えてあります。
唯一、特定の団体→キリスト教に向けては明らかに批判をしていますが、彼らを悪者として見せるような演出は一切していませんし、演技も怒鳴ったりするとかはあまりなく、静かに話が進みます。
どのようにして、このスキャンダルが明るみになったのかというプロセスを見せることを一番においています。
 
新聞記者たちは危ないことをしているわけではありませんが、今まで誰も触れてこなかった部分に切り込もうとしています。登場人物の眉間には常に皺が寄っているような状態で、息抜きシーンがほとんどありません。最初から最後まで同じテンションで突っ走ります。教会の追究を避け、早く真実にたどり着きたい登場人物たちの緊張感とリンクするような緊張感を覚えました。唯一ビールを飲んでいる時だけほっとするような気持ちになりました。
 
【プロ意識の塊】
ここまでの大スキャンダルを暴くに至ったのは、やはり現場の記者たちの不断の努力によるものでした。
被害者たちは事件の性質上、あまり口を開きたがらないし、精神的に追い詰められて薬やお酒に溺れ、自殺してしまう人もいます。そのため、被害者をSurvivor(生存者)と呼んだりもしています。
そういった人たちへの取材はすごく慎重さを要求される一方で、聞きにくいことも聞かなくてはなりません。
取材に行っても目の前でドアをぴしゃりと閉められたり、教会が記録を封印してしまったり、事件に関わっていた弁護士もなかなか協力してくれないなど、困難は山ほどです。良い悪いとかではなく皆それに命を懸けるも同然の力の入れようで、単に自社のスクープとして手柄をあげるのではなく、きちんと問題を明るみにして再発を防ぎたいという使命感をもって、厳格な姿勢で仕事に取り組んでいる記者たちがかっこよく見えます。多分、この映画を作った人も同じ思いで、批判を覚悟で製作したんだろうなと思います。
なぜか自分も頑張らなくてはという気持ちになりました。
 
問題を明るみにせず示談に持って行った弁護士たちも、自分たちの仕事をきっちりとした結果であるというのがなんとも皮肉です。
 
【宗教と組織】
映画から察するに、ボストンではキリスト教カトリック)が深く地域に根付いていて、地域形成、子供の教育の場でもありました。現代の日本で宗教がこういった役割を果たすことはなかなか実感がわかないですが、地域にとっては多大な貢献度だと思います。逆に言えば、教会に切り込むということは地域全体に喧嘩を売っているのも同然なんですね。
作中では、その絆ゆえに外から来た者に冷たいという描写があります(これが本当かは少し疑問の余地があります)
「教会」というのはあくまでも人を作った組織で信仰心とは別です。極めて大勢の神父が児童に対して性的虐待をしてしまうのも、個人の性質どうこうではなくて、組織がそういう性質を持っているからです。
人間とはもともと弱いもので、信仰というのは弱い心を持つ人間が強く生きるためのものです。信仰そのものではないはずの「組織」がいつの間にか信仰と同じくらい力を持つことで、逆にその弱さが露呈するという構図を捉えています。「組織」とは人が作ったものですから、そのものに対する信仰は危険です。
 
【雑記】
今作でミッチェル・ギャラベディアン弁護士を演じていたスタンリートゥッチですが、プラダを着た悪魔やハンガーゲームなど、最近たまたま見た映画によく出ていました。いつも存在感のある役どころなのに、後になって調べるまでそれがスタンリートゥッチだといつも気づかないなと思いました。映画によって全然見た目や印象が変わる人で、こういう人ってなかなか主役級にはならないけどいい俳優なんだなと思います。
 
(スタンリ―トゥッチが出ている映画に関する過去記事はこちら→

 

 

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